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2話 彼女の無意識な距離感と、俺の高鳴る鼓動

Penulis: みみっく
last update Terakhir Diperbarui: 2025-08-26 03:07:00

「あ、あの時の……!」

 彼女は少し驚いたように目を見開いた後、何かを確信したように安堵したように小さく息をついた。

「そっか、よかった……。ホントに見つけられて……」

 その一言に、ユウマの心臓は再び高鳴り始める。彼女の言葉一つ一つが、甘く、胸の奥にじんわりと染み込んでいくような気がした。

 そんなに、必死に謝罪をされる様な事はされていないのにな……? むしろ、ラッキーだと思っているくらいなのに。

 ユウマは、目の前で申し訳なさそうに頭を下げる彼女を見て、言葉を失っていた。彼女の白い同じようなデザインのブラウスから透ける色違いの黒いブラジャーのストラップが、彼の視界に飛び込んでくる。それは、昨日彼の腕に押し付けられた、柔らかな胸の感触を思い出させた。その感触を脳裏に蘇らせた途端、ユウマの全身の血が熱くなり、心臓がドクドクと不規則なリズムを刻み始める。

 彼女は、事情を説明してくれた友人の言葉を聞くと、改めて顔を上げた。潤んだ大きな瞳がユウマを捉える。きゅっと口元を引き結んだ、少し困ったような表情は、ユウマの胸を締め付けた。

「あ、あの……わたし……あなたを覚えてなくて……それで、どうしても謝りに来たいって言ったら、友達が一緒に探してくれたんです」

 そう言って、彼女は少し声が震えている。ユウマは、彼女の純粋で真面目な性格に、昨夜の出来事が偶発的なものだったのだと確信し、安堵と、かすかな寂しさが胸に去来する。

 彼女の横にいた友人の一人が、ユウマの顔をまじまじと見つめた。

「あれ……? もしかして、ユウマくん? 文学部の?」

 ユウマは驚いて、その友人の顔を見た。見覚えは……ない。しかし、その友人の言葉に、彼女の瞳がキラキラと輝き出した。

「え? もしかして、知り合い? ね、ねぇ……わたしに紹介してくれないかな?」

 友人はにこやかに頷いた。

「あぁーうん、サークルの友達だよ。彼は、ユウマくん、いつも図書館で本読んでるよね? 真面目で優しい人って印象かな。っていうか、ヒナが積極的に男子に喰いつくのって珍しいね……」

 まさかの繋がりだった。ユウマは、恥ずかしさで顔から火が出るようだった。まさか、普段の地味な自分を知っている人に、こんな形で再会するなんて。

「あ……はい……。俺はユウマです……」

 しどろもどろに答えるユウマを見て、彼女はくすりと微笑んだ。その笑顔は、ユウマの張り詰めた緊張を、ほんの少しだけ和らげてくれる。

「よかった。これで、わたしも安心した。ちゃんと謝れたし、ユウマくんが優しい人でよかった! うふふ……♪ これで知り合いになれたよねっ」

 彼女の一言一言が、ユウマの心の奥底にじんわりと温かさを広げていく。彼女は、さらに一歩ユウマに近づくと、少し頬を赤らめながら、はにかむように尋ねた。

「あの、よかったら、お礼に……今度、お茶でもどうかな? もちろん、迷惑じゃなかったら、だけど……わたしヒナ、よろしくねっ」

 ヒナは、赤茶色のミディアムヘアーのハーフアップの髪型が良く似合い。少し頬を赤らめながら、はにかむようにユウマにそう尋ねた。ユウマの心臓は、再び、激しく高鳴り始める。昨夜の柔らかな感触と甘い香りが、再び腕に蘇るような錯覚に陥った。彼の全身に鳥肌が立ち、指先が微かに震える。それは恐怖ではなく、期待と興奮が混ざり合った、初めての感情だった。彼の目の前に広がる世界が、一瞬で色鮮やかに輝き始めたように感じた。

 ヒナとカフェで会うことになったのは、それから三日後のことだった。

 お互いの大学の話や、共通の友人である彼女のサークル友達の話など、他愛もない会話が弾む。と言っても、彼女からの一方的な話に相槌を打ち、少し言葉を返すだけだった。しかし、お互いに笑顔で楽しい時間だった。だが、ユウマは常に緊張していた。ヒナがあまりにも自然に、そして無意識に、体を近づけてくるからだ。

 話をしている最中、身を乗り出すようにして、ヒナの顔がユウマのすぐそばに来ることが何度かあった。そのたびに、彼女の長いまつげや、瑞々しい唇が視界に入り、ユウマはドキリとしてしまう。彼女のふわふわとした髪の毛から香る、甘く優しい匂いが、ユウマの意識をさらに支配した。

 帰り道、彼と彼女の二人は、肩が触れ合うほどの近さで並んで歩いていた。街灯の光が、二人の影を長く地面に伸ばす。その時、ヒナが不意にユウマの腕に自分の腕を絡めてきた。柔らかな感触が、Tシャツ越しにじんわりと伝わり、ユウマの心臓は大きく跳ね上がった。

「ねぇ、ユウマくんってさ、いつも図書館にいるんだよね。なんか本が好きなのかな?」

 無邪気な声が、すぐ隣から聞こえてくる。ヒナの体温が、シャツ越しにユウマの腕にじんわりと伝わってくる。その温かさに、ユウマは心臓が爆発しそうになるのを必死に抑えながら、どもりながら答えた。喉の奥がカラカラに乾き、唾を飲み込むのも精一杯だった。

「あ、うん……まあ……いろいろと好き、かな」

 自分の声が、思ったよりも震えていたような気がした。ヒナは気にする様子もなく、楽しそうに微笑んだ。

「そぉーなんだぁ。頭が良さそうだもんね! わたしが聞いても分からないか~」

 ヒナは、さらにユウマの腕に絡ませた腕を強く密着させる。その無邪気な仕草に、ユウマの耳の奥で、自身の鼓動がドクドクと響いた。

「飲み会とか、よく行くのかなぁ?」

 ヒナの瞳が、きらきらと輝いている。彼女は本当に純粋な好奇心で尋ねているのが、ユウマには痛いほど伝わってきた。

「友達に誘われたら行く程度……かな」

「へえ、意外! なんかさ、ユウマくんって、一人でいるのが好きなのかなーって思ってたから」

 ヒナはそう言うと、ユウマの腕に絡ませたままの腕で、軽くユウマの脇腹を小突いた。ポン、と軽い衝撃が伝わる。その無邪気な行動に、ユウマは胸の奥が温かくなるのを感じた。ヒナは、本当に悪気なく、ただ純粋にユウマを「仲の良い友達」として接しているのだ。

 その事実が、ユウマの胸に甘酸っぱいような、もどかしいような感情を呼び起こした。彼女の柔らかな髪から漂う甘い香りが、ふわりと鼻腔をくすぐり、ユウマの心を一層ざわつかせた。

 そんなある日のこと。いつものように二人で大学の帰り道を歩いていると、ユウマのスマホが鳴った。

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